コラム

供述心理学とは(第4回)

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【供述心理学の実践的役割】

 供述心理学は、刑事事件において被疑者や証人の供述の正確性と信頼性を評価するために不可欠な学問です。以下に、その具体的な役割と、法的手続における活用方法を説明します。

1.虚偽自白の防止と評価
 虚偽自白は、長時間の尋問や精神的圧力によって被疑者が自らの意思に反して偽りの自白をしてしまうケースです。この問題に対して、供述心理学は以下のように役立ちます。

・捜査官の尋問技術の改善
 供述心理学は、捜査官に対して誤った自白を引き出さないための技術を提供できるのではないでしょうか。たとえば、尋問中に使用する言葉の選び方、威圧的な態度を避ける方法、被疑者の心理的負担を減らすための休憩の必要性など、具体的な方法論を示せる可能性があります。

・虚偽自白の分析と弁護戦略
 心理学者は法廷で、被疑者がどのような状況で虚偽自白をする可能性があるかを証言します。これにより、弁護士は自白が信用できないことを立証し、被告人の権利を守ることができます。例えば、「誘導質問による影響で自白が変わった」など、具体的な証拠を基にした反論が可能です。

2.記憶の歪みと信頼性の評価
 目撃証言は、事件解決において重要な証拠となることが多いですが、記憶は曖昧で影響を受けやすいものです。供述心理学は、記憶の形成とその変容について深く理解し、証言の信憑性を判断します。

・ストレスやトラウマの影響
 供述心理学では、事件当時のストレスや恐怖がどのように証言者の記憶に影響を与えるかを研究します。たとえば、目撃者が事件の際に激しい恐怖を感じていた場合、犯人の顔の特徴を正確に思い出せないことが多いです。これを知ることで、弁護人は目撃証言の信頼性について法廷で異議を唱えることができます。

・記憶喚起技術の活用
 供述心理学者は、認知面接法などの技術を使い、目撃者や被害者の記憶をより正確に引き出す手法を提供します。例えば、目撃者にリラックスした状態で事件を思い出させ、オープンな質問を通じて可能な限り詳細な情報を引き出すことがあります。このようにして得られた供述は、より信頼性が高いとされています。

3. 一貫性と矛盾の分析
 法廷では、供述の一貫性がしばしば重視されますが、供述心理学では、一貫性の欠如が必ずしも嘘や偽りを意味しないことを示します。

・正常な記憶の変化
 証人や被疑者の供述が一貫していない場合、それは自然な記憶の変容であることが多いです。例えば、事件当初の供述と裁判時の供述に若干の違いがあるのは、時間の経過や状況の変化によるものかもしれません。供述心理学者は、そのような矛盾がどの程度許容されるべきかを分析し、供述の信頼性に関して法廷で証言します。

・供述のコンテクストの重要性
 供述が矛盾している場合でも、その背後にある心理的要因を理解することが重要です。例えば、被疑者が恐怖やストレスを感じていた状況では、供述が一貫しない可能性があることを供述心理学者は説明します。これにより、供述が完全に信用できないという結論に至る前に、その背景が考慮されます。

4.児童供述の評価
 供述心理学は、特に児童の証言に関して極めて重要です。子どもは大人と比べて暗示にかかりやすく、記憶も変わりやすい傾向があります。これに対して供述心理学は、以下の点で有用です。

・適切な尋問技術
 子どもに対する尋問は、特に慎重に行われなければなりません。供述心理学では、児童に対して適切な質問をする方法を提案しています。例えば、誘導的な質問や圧力をかけることなく、子どもが自らの言葉で事件を語るような環境を整えることが重要です。

・供述の信頼性の基準設定
 供述心理学者は、子どもの供述がどの程度信頼できるかを科学的に評価します。例えば、子どもの年齢や認知能力を考慮に入れて、どのような供述が信頼できるかを明確にします。これにより、法廷では児童供述に関して慎重な判断が下されるようになります。

5.証拠の信頼性向上と法廷での支援
 供述心理学は、法廷での証拠の信頼性を高めるための直接的な支援を行います。

・法廷での専門家証言
 供述心理学者は、被疑者や証人の供述がどのような心理的状況や外部要因によって影響を受けたかについて、専門的な証言を行います。これにより、供述の信憑性について裁判官や裁判員に理解を深めさせ、より正確な判断を下す手助けをします。

・弁護側と検察側双方に対する助言
 供述心理学は、弁護側だけでなく検察側にも役立ち得ます。弁護側は虚偽自白や誤った供述の可能性を示すことができますが、検察側も証言の信頼性を強化するための科学的根拠を心理学者から得ることができます。例えば、正しい尋問方法や供述の信頼性に関する証拠を法廷で示すことが可能です。

【結論】
 供述心理学は刑事事件において、供述の正確性や信頼性を科学的に分析し、法的手続全体の公正さと正確さを向上させる重要な役割を担っています。特に、冤罪防止や虚偽自白の防止、証人や被疑者の記憶に関する科学的な理解は、現代の法廷で不可欠なツールとなっており、供述心理学は司法の公正性を守る強力なパートナーといえるでしょう。