コラム
供述心理学とは
皆さん、「供述心理学」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
本日は、私が担当している事件の関係で力を入れて研究している、
供述心理学についてお話ししたいと思います。
【供述心理学とは?】
供述心理学は、我々がどのように記憶を形成し、情報を提供するのかを研究する学問です。刑事司法の場面では、犯罪の目撃者や被害者がどのように証言するか、その背後にある心理的なメカニズムを探るために役に立ちます。この学問は、適正な裁判のために非常に重要なのです。
【記憶と証言の関係】
私たちの記憶は非常に複雑です。たとえば、何かを目撃したとき、その情報は脳に保存されます。しかしその保存された情報は、時間が経つにつれて変化したり、他の情報に影響を受けたりすることがあります。供述心理学では、どのようにして人々が記憶を再生するのか、そしてその過程でどのようなバイアスや誤りが生じるのかを分析します。
【影響を与える要因】
1 ストレス:緊張したり恐怖を感じたりすると、私たちの記憶は曖昧になりやすいのです。例えば、事件現場を目撃したときの恐怖や混乱が、重要な細部を忘れさせることがあります。実際、心理学の研究では、厳しい取調べ等ストレスの高い状況下での証言は、信頼性が低くなることが示されています。
2 質問の仕方:質問の内容や方法も、供述に大きな影響を与えます。「彼はあなたの顔にナイフを向けましたね?」「彼があなたに向けたナイフはこれですか?」といった質問は、架空の記憶を引き出すことがあります。このような質問が偏りを生むこともあるため、注意が必要です。
3 他者の意見: 他の人の意見や証言も、自分の記憶に影響を与えることがあります。ニュースで「犯人は白いセダンに乗っていた」と聞くことで、元々の記憶が変わってしまうことがあります。
【供述心理学の意義】
供述心理学の研究は、司法制度にとって非常に重要です。誤った証言や記憶の歪みが起こると、無実の人が処罰されたり(冤罪)、真犯人が捕まらなかったりする可能性があります。供述心理学の研究により、供述の正確性を高める方法や、誤った証言を防ぐための技術が開発されつつあります。
【日常生活への応用】
私たちの日常生活でも、供述心理学の知識は役立ちます。たとえば、友人や家族との会話で、過去の出来事について話すときに、本当にそのようなことがあったのか・記憶がねじ曲がっていないか等、自分の記憶がどのように形成されているのかを考えることで、より客観的な視点を持つことができます。また、他人の証言を鵜呑みにするのではなく、その背景や文脈を考慮することも重要です。テレビ等で事件のニュース報道を聞いたとき、目撃者の証言がどれだけ信頼できるかを考えることで、情報を鵜呑みにすることを避けられます。
【まとめ】
供述心理学は、私たちの記憶や証言がどのように作られ、影響を受けるかを理解するための重要な分野です。この知識を活かすことで、私たちは日常生活や社会の中でより良い判断を下せるようになり、より良いコミュニケーションができるようになるのです。