コラム

供述心理学とは(第5回)

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【人はなぜ、やっていないことを自白してしまうのか?】

 皆さんは、無実の人が実際にはやっていない犯罪について「自分がやりました」と認めてしまうことがあると聞いて、不思議に思ったことはないでしょうか。

 「やっていないのなら、やっていないと言い続ければよいのではないか」と考える方も多いと思います。

 しかし、実際の刑事事件では、無実の人が自白してしまう「虚偽自白」が問題となることがあります。

 今回は、供述心理学の観点から、なぜそのようなことが起こり得るのかを考えてみたいと思います。

【虚偽自白はなぜ起こるのか】

 取調べを受ける人は、必ずしも落ち着いた心理状態にあるとは限りません。

 逮捕され、外部との接触が制限され、慣れない環境で繰り返し質問を受けることは、人によっては大きな心理的負担となります。

 そのような状況で、長時間にわたる取調べや繰り返しの追及などが重なると、取調べを早く終わらせたい・これ以上責められたくないという思いから、事実とは異なる内容を認めてしまう場合があるのです。

 また、取調官から示された情報や説明に影響され、自分自身の記憶に自信が持てなくなり、実際には行っていないことを「自分がやったのかもしれない」と考えるようになってしまう場合もあります。

 このように、虚偽自白には様々な心理的な背景や成立過程があり、単純に説明できるものではありません。

【自白したからといって、必ずしも真実とは限らない】

 刑事事件において、自白は重要な証拠となることがあります。

 しかし、本人が犯行を認めているという事実だけで、その内容が正しいと判断することはできません。

 例えば、取調べの中で、本人が自発的に語る前に捜査官から事件の具体的な情報が伝えられ、その情報が後の自白に含まれるようになった場合には注意が必要です。

 その自白が本人自身の体験や記憶に基づくものなのか、それとも取調べの過程で得た情報に影響されたものなのかを、慎重に検討する必要があるからです。
(もちろん、そのような情報のやり取りがあったからといって、直ちに自白が虚偽であると判断できるわけではありません。)

【供述が作られた過程を見ることの重要性】

 供述心理学では、供述の内容だけでなく、その供述がどのような過程を経て形成されたのかにも注目します。

・最初は何と説明していたのか。
・どのような質問を受け、その後、供述がどのように変化したのか。
・取調官からどのような情報が伝えられていたのか。

 こうした経過を確認することは、供述の信用性を検討する上で重要です。

 もちろん、供述が途中で変化したからといって、直ちに虚偽であると判断できるわけではありません。反対に、供述が一貫しているからといって、必ずしも正確であるとも限りません。

 供述の変化や一貫性については、その背景にある事情や客観的な証拠との整合性なども踏まえて検討することが大切なのです。

【刑事弁護との関わり】

 刑事弁護においては、依頼者が取調べでどのような質問を受け、どのような説明をしたのかを把握することが重要です。

 特に、本人が事実関係を争っている事件では、供述調書の内容だけでなく、取調べの経過や客観的な証拠との整合性についても丁寧に検討する必要があります。

 供述心理学の知見は、こうした検討を行う際の重要な手掛かりの一つとなります。

【まとめ】

 人が犯罪を自白したからといって、その内容が常に真実であるとは限りません。

 供述の信用性を判断するためには、何を話したかという結果だけでなく、どのような経過でその供述に至ったのかという過程にも目を向ける必要があります。

 刑事弁護に携わる者として、今後も供述心理学に関する研究や知見を学び、日々の弁護活動に活かしていきたいと考えています。

参考文献
・浜田寿美男「虚偽自白の心理学とその射程」『認知心理学研究』第4巻第2号、2007年、133–139頁。
・Kassin, S. M., Cleary, H. M. D., Gudjonsson, G. H., Leo, R. A., Meissner, C. A., Redlich, A. D., & Scherr, K. C. (2025). Police-induced confessions, 2.0: Risk factors and recommendations. Law and Human Behavior, 49(1), 7–53. https://doi.org/10.1037/lhb0000593