コラム

供述心理学とは(第3回)

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 供述心理学は、犯罪や事故などの事件に関する供述の信頼性や正確性を評価するための学問分野です。誤解を恐れずごく簡単に表現すれば、「人が話すことが本当かどうかをどうやって判断するか」を探求する学問、とも言えるでしょう。しかし、単に「嘘か本当か」を見抜くというだけでなく、供述がどのようにして作られ、その内容がどのように記憶や感情に影響されるかにも焦点を当てるのです。

【記憶の曖昧さと供述の複雑さ】
 第1回のコラムでも書きましたが、人は日常的に膨大な情報を処理しているところ、私たちの脳はすべてを正確に記憶できるわけではありません。例えば、目撃者がある犯罪現場を見たとしても、事件の詳細をすべて正確に覚えているとは限らないのです。時間が経つにつれ、記憶は変わりやすく、周りからの影響や感情によって歪むことがあります。

 この「記憶の曖昧さ」は、供述心理学の重要なポイントです。目撃者や被害者がどんなに誠実に話していても、その供述が完全に正確だとは限らないのです。だからこそ、供述心理学では、話し手の心理状態や記憶のメカニズムを深く理解し、どの部分が信頼できるのか、またどの部分が歪んでいる可能性があるのかを考慮します。

【嘘の見抜き方:行動と心理の相互作用】
 「人は嘘をつくときに目を逸らす」「不自然な動きをする」等、嘘を見抜くためのテクニックとして知られているものがありますが、実際にはそれほど単純ではありません。供述心理学は、これらの一般的な「嘘発見テクニック」を批判的に検討し、より科学的なアプローチを採用します。

 たとえば、嘘をつくとき、人はしばしば複雑な感情を抱きます。不安や罪悪感が顔の表情や声のトーンに表れることがありますが、その微妙な変化を読み取るのは容易ではありません。また、逆に真実を話しているのに、不安や緊張を感じているために嘘っぽく見えてしまうこともあります。

 供述心理学においては、ただ目の前の情報に頼るのではなく、背景にある要因や状況、感情の複雑な絡み合いを考慮します。例えば、目撃者がなぜ特定の部分について詳細に覚えているのか、その状況でなぜそのような反応をしたのかなど、表面的な事実を超えた深い考察を行います。

【供述心理学の未来】
 供述心理学は、これまでの「嘘か真実か」を見分ける単純なアプローチを超えて、供述の多層的な側面を探る新たな方向へ進んでいます。AIやニューロサイエンス(神経科学)といった最新のテクノロジーが、供述の信頼性をより正確に評価するためのツールとして注目されています。


【まとめ」
 供述心理学は、人の記憶や感情の複雑さを理解し、単なる「嘘発見」以上のアプローチを提供する学問です。供述心理学の活用により、人の供述がどのように形成され、歪められるのかをより深く考察できるようになります。そして、今後の技術の発展とともに、この分野はさらなる革新を迎えることでしょう。